社民党をリ・ブランディングしてみる

2020年12月08日

ブランディングの潮流、再び 

最近、書店のビジネスコーナーあるいは自己啓発関連の書棚に行くと、タイトルに「ブランド」や「ブランディング」という言葉が入った書籍を、よく見かけるようになりました。

コロナ禍の影響で世の中のビジネスや経済のあり方が変容していくなか、より競合と差別化し顧客から選び取ってもらうための策として、いまブランディングに衆目が集まっているのではないでしょうか。

私は以前、企業のCIやブランディングの専門会社に約17年在籍していました。これまでも何度か「ブランディング」が重要視される状況を目にしてきましたが、今回はコロナ騒動を契機として、ネットやSNSを主な舞台としたブランディングの潮流が、企業から個人のレベルにまで訪れているように思います。これについては、いずれ筆を改めて分析してみたいと思います。

さて、わかっているようで実はよくわからないこの「ブランディング」という概念、D.アーカーはじめ洋の東西を問わず多くの著名な学者や研究者が何度も定義を試みてきました。

もし私がいま誰かから「ブランディングってなんですか?」と訊かれたとしたら、

・何をもって自らのビジネスのコアとして位置づけ

・どのような人々にどのようなベネフィットを提供し

・競合および社会全体の中でどのようなポジションでありたいのか

を企業自身が明確に認識し、そのイメージ像を

・伝えたい人たち(顕在顧客、潜在顧客、従業員自身、関係社会、そして社会全体)にどれだけブレることなく伝達できるか

を設計、展開する戦略のことではないか、と答えると思います。

そう考えると、ブランディングとは必ずしもビジネスの世界だけでなく、非営利の団体や個人等においても有効な、いやむしろ必要な方法論ではないかと思われます。


ブランディングについて、詳しく知りたいという方にはこちらの「ブランディングとは?正しい意味と実行4ステップを完全解説」というサイトがおすすめです。書籍一冊分くらいの密度があり、わかりやすく解説されています。興味のある方はぜひ一度ご覧になってみてください。 

社民党はブランド衰退期? 

2020年11月、あるニュースが世間を騒がせました。野党共闘をめぐって社民党が分裂、立憲民主党へ合流するグループと現党首の福島みずほ氏が袂をわかち、党消滅の危機に瀕しているというものです。日本社会党から連綿と受け継がれ、一時は首相をも輩出したことのある歴史ある政党が、ついに姿を消してしまうのかと驚きをもって報じられました。反面巷では、昨今の中央政界における同党の存在感の無さから、来るべきして来た状況とも受け止められています。

この構図は、企業に置き換えて考えると理解しやすいのではないでしょうか。

・歴史を誇る業界の二番手企業で、トップ企業(自民党)に対するカウンターとして広く長く、支持を集めてきた。

・全国に支社や営業所があり(地方議会、地方支部)、熱心な顧客(支持者)が存在した。

・業界トップ企業との事業提携(1994年自社さ連立政権)には誰もが驚いたが、一方で経営理念(政策方針)の一貫性に陰りが生じていく。社名変更(日本社会党→社会民主党)を行いイメージ刷新を図るも、業績(議席数)は下降。

・新たな勢力として新興企業(立憲民主党、維新など)が勢力を拡大、これまでにない発想を持つ若い企業(れいわ新選組)がプレゼンスを発揮するなか、離脱する社員(議員、党員)顧客(支持者)が増え、徐々にシェアを失っていく。

・ついに役員クラス(国会議員)が競合他社(立憲民主)に移籍、経営陣としては社長(党首)のみが残存することとなった。

といった感じです。

「山が動いた」(土井たか子元党首)ほどの勢いを見せたこともあった社民党。なぜ、このような事態を迎えてしまったのでしょうか。要因として考えられることがいくつかあります。

【外部環境要因】

・社会主義というイデオロギーが時代に合わなくなった。旧ソビエトが崩壊、東欧諸国も民主化し、中国の社会主義的側面が国際社会から批判される現在では、社会主義イメージを継承する社民党や共産党への共感が得にくくなっている。

・反主流としての業界内ポジションが揺らいだ。主流である自民一強に対し、対抗概念を示す役割を長く担ってきたが、より明快で強い印象を与える新興勢力にその座を明け渡した。

【内部環境要因】

・「社会民主主義」が理解されにくい、浸透しない。社会主義を現代的にリニューアルした社会民主主義という考え方が、直感的にイメージし難く、普通の民主主義とどう違うのか、が一般にはあやふやなまま放置された。

・支えてきた支持層が高齢化し、ブランド継承に成功しなかった。勢いのあった頃には評価されていた主張が、時代と共に「自民党的なものを批判しているだけ」「国益を損なっている」等と批判の対象となり、若手や中堅世代にとって魅力ある代替案として認識されなくなった。

・現党首のイメージが強すぎる。良くも悪くも福島氏はシンボリックな存在であり、個人への評価・評判が党の評価・評判に直結した。世間の視線は社民党が何をやっているのか、というより福島氏が何をやっているのか、になってしまっている。

こうして整理してみると、時代に合わせたブランドコントロールができず、いつしかそのエクイティ(資産)が減少してしまい(遺産を食い潰した、という照屋議員の批判)、ブランドネームの知名度と首脳陣のネームバリューだけが頼りとなるに至った様子が見て取れます。「ブランド」という観点から言えば、申し訳ありませんが衰退期と言わざるを得ないでしょう。

「ブランディング」という言葉が「ブランド+ing(現在進行形)」であるのは、それが常にブランドに関するPDCAを回し続ける行為であるからです。社民党は、かって輝くブランドを持っていたが、ブランディングには失敗してしまった、と言ったら言い過ぎでしょうか。

リ・ブランディングには絶好のタイミング 

しかし逆に考えれば、今この時こそもう一度ブランディングを図る、絶好のタイミングとも言えるのです。その理由は「久しぶりに社民党が注目されている」からです。

誰も知らないところで「私たちはこうします」「こう変わります」と叫んでも、あまり効果は期待できません。日本の政治においてそれなりに役割を果たし、足跡を残してきた政党が「分裂し、消えるかもしれない」というニュースには、十分なインパクトがあります。


百貨店の閉店セールを思い出してください。多くの報道機関がこれを報せ、これまでの顧客が店頭に大勢集結し、店長以下勢ぞろいして最後の瞬間を迎えます。これほどの客が日々来てくれていたら、と思うことしきりです。

これと同様に、社民党存続の危機と言われるいま、その存在を思い出して「惜しい」「残念」と思う人たちが少なからず存在します。「しょうがないな」と考える人もまた、ある種の感慨を持って事態を受け止めています。このタイミングにこそ、手を打たなくてはなりません。さらに来年は衆議院議員選挙があります。政党要件を満たさなくなる状況下で「政党助成金を出すに値するのか」と言う声にも答えていかなくてはなりません。

動向が注目されている現在、何か動きがあればまずマスメディアがフォローしていきます。(実際に12月に入り、新聞各紙や週刊誌などが関連記事や同党議員、党首のインタビューを報じています。)SNS等でコメントする人も増え、情報が拡散されてこれまであまり関心を示さなかった人々も社民党に関する話題を目にするようになります。

ここで「これまで通り一所懸命頑張ってやっていきます」というメッセージしか発信できなければ、社民党は結局「現状のままフェイドアウトしていく存在」と思われてしまう危険性があります。

福島党首も、そうならないように現時点では「新生社民党」としてのリスタートを掲げているようですが、「新生」と銘打つからには劇的でインパクトのある強い変化を表明しなければなりません。

女性や若者を主役に(時事ドットコムによる党首インタビューより)と言う現時点での方針は、残念ながら強いメッセージになっているとは言い難いものです。


社民党のコア・コンピタンス

では、新生「社民党」はどのようなことを中核に据えて、メッセージを設計していけばよいのでしょうか。ヒントは、これまで同党が発してきた様々な言葉の中に潜んでいます。

まず、社民党の中心的な理念として掲げられている「社会民主党宣言」を見てみましょう。

「1.格差のない平和な社会を目指して」では、働く人や弱者、そして平和を願うすべての人々と共に、「貧困や抑圧、偏見から解放され、安心して生活を営むことが可能となるよう、民主主義を拡充し、差別と格差、不平等の解消に取り組」むと書かれています。

具体的にはその後に、

・戦争の放棄を明確に決意した憲法が、その前文で「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」と位置づけた平和的生存権を尊重し、誰もが平和な環境の中で暮らすことのできる社会

・子どもを生み育て、学び、働く機会を公正に保障し、不安なく老後をおくることができるよう、生活条件の向上を最優先とした社会

・あらゆる差別をなくし、人権と社会参加の条件を等しく保障することで、誰もがともに生きていくことができるよう、連帯を柱に据えた共生社会

(上記「社会民主党宣言」より引用)

という三つの目標を掲げています。

社民党の良いイメージについて多数の人々から意見を募り、考察を試みた実験がYouTubeにありまして、題して「社会党を知らない世代が社民党のいいとこ100個見つけるまで生配信!」(選挙ドットコムちゃんねる)というのですが、こちらではじめに挙げられているのもやはり「護憲」「弱者重視」「女性」というワードです。

憲法の平和主義を遵守し、民主主義社会の中で少数である弱者の味方となり、男女差別をなくす。基本的には、社民党の目指すそうした世界観は広く理解されていると考えて良さそうです。

しかし、実はここが社民党の弱点でもあります。SNS等の反応を見ていくと分かりますが、「護憲」「弱者重視」「女性」という政策観点についてどうしても容認できない立場の人々も、一方で少なからず存在するからです。

例えば「護憲」については、

・軍備を放棄したら東アジアの覇権を狙う脅威に対処できない。

・憲法改正や軍事研究に関する議論すらしてはいけないのか。

という声があります。

「弱者重視」については、

・北朝鮮拉致被害に対する立場が説明されていない。

・必要以上の外国籍住民の権利擁護は国益を損なう。

などの批判が上がります。

反・社民党の立場に立つ人々も我が国の国民ですが、その人々からは結局「主張をヒステリックに叫び、ただ保守・自民の路線に反対するだけ」という印象をぬぐい去ることができないでいます。

この状況を、劇的に変えない限り、社民党の「新生」が世間の関心を得ることは難しいと思われます。

あなたは、どうするべきだと思われますか。

ビジネスの世界では「競合に対して優位性を保てる独自の強み」のことをコア・コンピタンスと呼びます。コア・コンピタンスを探し出すことができれば、「新生」も可能かもしれません。果たしてそんな魔法の種みたいなものが、存在するでしょうか。

福島党首の言葉に、このようなものがありました。

「日本に宝物があるとすれば、全国の平和や脱原発などの市民運動だと思っているんです。地位や名誉などを目的とせず何十年と携わってきた人たち。社民党はその運動とつながり、社会を動かしてきた」2020 福島みずほ

NHK web特集「社民党は消えてしまうのか」より

福島党首や社民党は「ダメなものはダメ!」とばかり固定化した考え方に固執し、人の意見に耳を貸さない、と思われている節がありますがそうではない、という事です。多くの人々、市民と連携してこれまでやってきたんだ、と言っているのです。

こうした発言は、実は他の幹部からも発せられています。

「私たち社民党は理念をしっかりと共有している党ですので、それぞれの議員に理念・基本政策の違いがありません」2018 又市征治

選挙ドットコム「又市征治インタビュー」より

「社民党は各支部・都道府県連合・全国連合という、ボトムアップの組織であり、ボランティア/サポーターがどのように党活動に関与できるかは、各地域の党活動のあり方にしたがって異なると思われます」1995 吉田 忠智

社会民主党神奈川連合「1995年党首選挙公開質問状」より

大上段に政策を掲げ、それを絶対の方針として守らせるのではなく、ボトムアップ型の組織なのだという。上意下達型ではなく、「共有する」組織だと自らを位置付けているのです。現在でも社民党の地方組織は強いという話をききますが、社民党にビジネスモデルがあるとしたなら、この「ボトムアップで築いたものを共有していく」というスタイルだと思います。

そうであるならば、先ほど述べた「護憲」や「弱者」の問題に関しても、シンパシティを感じてくれる人々だけでなく、異なる立場の意見も議論に加え、より広く門戸を開放し方針を作っていけば良いのではないでしょうか。福島氏はインタビューで党員ではなくサポーター制度の導入も検討課題と答えています。テレワーク社会になって、ネット上で意見を交わし情報を共有し、精度を高めつつバージョンアップしていく協働のためのシステムが発達しています。これらを活用し、現在よりも多くの人々と「差別なく」議論を進める政党になることができれば、それが新生のコア・コンピタンスになるのではないでしょうか。


新生「社民党」のブランドメッセージ 

「多くの人と意見を交わす」と言っても、人々の方がその気になってくれなければ絵に描いた餅です。そのためには、「社民党がそういう路線に変わった」「理念を実現するためにあらゆる国民の力が必要だ」という強いブランドメッセージを、人々のもとへ届けなくてはなりません。ドラスティックな変化のイメージと共に。

それでは「日本社会党」が「社会民主党」になった時のように、党名を変えたら良いのでしょうか。

私はそれは得策ではないと考えます。マイナスのイメージが高まったとはいえ、知名度が高く歴史を感じさせる名称を捨ててしまうのはリスクが伴います。

ならば党名はそのままで、そこにプラスのイメージを付与すれば良いのです。「タグライン」「ブランドステートメント」などと呼ばれる、簡潔なフレーズを常に一体として露出させていくのです。

社会と民主主義を護る党。

社民党は、「社会民主主義」というなじみの薄いイデオロギー名称にこだわるべきではありません。これまでにない、幅広い裾野を基盤としてボトムアップで政策を掲げていく初めての政党として、「社会と民主主義を護る」党を表明すべきです。

このことは、現状の理念や組織体制、過去の活動と矛盾するものではなく、それをさらに拡大拡充していくものです。そして本当に「社会を護る」「民主主義を護る」ために、あらゆる人々と対話していく。現在の議会制民主主義は、残念ながら最終的には多数決による数の論理に裏付けられるものです。その中で、少数派の存在を常に意識しながら社会の在り方を考える、という理想は広く受け入れられるのではないか、と思います。


以上今回の内容は、論考としてはかなり駆け足で乱暴なものになりました。折を見て、さらに充実させていけたら面白いかな、と考えています。

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