2021年、サステナブル事情は大きく変わる!
この記事を書いた5月8日は、2021年度の世界フェアトレード・デーでした。
小田急百貨店で開催したCARINOのPOP-UPショップで店頭に立っておりますと、フェアトレードの表示を見てご購入くださるお客さまが少なからずいらっしゃいます。
今年はCOVID-19の影響により、小売業にとって厳しい状況が続いています。今も政府による緊急事態宣言の真最中ですね。
そのような中での今回、実は2021年の日本社会は大きな転換期を迎えているのではないだろうか、というお話です。
※本記事は、2021年5月開催の「フェアトレードフェスタちば2021」に合わせて 企画・執筆しています。
時代はグリーンリカバリーへ
4月に発表された日経クロストレンド「トレンドマップ 2021上半期」調査では、「サステナブル消費」「サーキュラーエコノミー」「エシカル消費」「ジェンダーフリー」「SDG's(持続可能な開発目標)」「カーボンニュートラル」といったサステナブル関連キーワードについて、国内での関心が高まっていることが指摘されました。
注目すべきは、同時に「クラウドファンディング」「シェアリングサービス」「サブスクリプション消費」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「IoT」「D2C」など新技術、新サービスを表すワードが、共に高いスコアを示している点です。
COVID-19の流行によって個人も企業も「新しい生活様式」が求められ、これまでの消費スタイルを急速に再考せざるを得なくなった結果、持続可能性の追求と技術・サービスへの期待があらゆる分野で高まったためではないかと考えられます。
「新しい生活様式」はまた過去の大量生産・過剰消費・大量廃棄のサイクルに対する反省を加速させ、これまで以上に様々な場面で社会のアンバランスを是正する契機となっています。皆さんも「ヴィーガンやアニマルウェルフェアなど、馴染みのなかった概念を近頃よく聞く」「SNSでフェアトレードやSDG'sに関する書き込みが増えた気がする」等の経験に思い当たりませんか。
こうした潮流を説明する近年のキーワードに「グリーン・リカバリー」という概念があります。これはコロナ禍からの経済復興にとどまらず、社会全体の持続可能な在り方を再構築(リ・ストラクチャリング)しようという、統合的な考え方として現れてきたものです。産業構造や消費行動、経済循環の仕組みそのものの変革を目指すグリーン・リカバリーは、いまや我が国でも大きなトレンドになりつつあります。
国連サミットでSDG's(持続可能な開発目標)が採択されておよそ5年が経過し、ゴールとして設定された2030年まで残り10年を切った今年、私たちはついにグリーン・リカバリー社会の本格的な実現へと向かう転換点=ティッピングポイントを迎えたのかもしれません。
SDG'sへの取り組みは「普通のこと」になっていく
CO2の排出量規制やレジ袋有料化による廃プラスチック削減など、これまでも環境への負荷を抑える様々な国家レベル・企業レベルの努力は続けられてきました。この傾向がグリーンリカバリーへのシフトチェンジを追い風に、さらに進んでいくことになると思います。
既に海外では動物由来製品や繊維製品をめぐる法的規制が強まり、コストコやバーガーキングは鶏卵養鶏のバタリーケージ飼育を廃止する方向に舵を切りました。アニマルウェルフェアへの配慮は、株価にも影響を及ぼすようになっているからです。
日本では集約型養鶏への批判はこれまで強くありませんでしたが、大手鶏卵業者からの現金収賄で今年1月吉川元農水相が在宅起訴されたことで、にわかに注目が集まっています。
また石油製品の次に環境負荷が高い産業といわれる繊維業界でも、特に廃棄と有害物質の排出を規制する動きが表面化しており、業界はこれまでの生産体制見直しを図っています。
国際環境NGOグリーンピース・ドイツは、2018年7月に発表した「Destination Zero - 衣料品業界デトックスの7年間」 で、アパレル産業の製造プロセスにおける有害化学物質の使用・排出全廃を提唱しています。
「終わりなき有害物質の再循環を断ち、繊維における循環型経済を実現させる(同レポートより) 」ため、デトックス宣言に賛同したブランド(例えばベネトンなど)は、2次、3次請負までサプライヤーリストを開示、企業単独のアクションを越えてサプライチェーン全体を通じた再生可能システムを推進しています。
そこには、どこでどのような過程を経て原材料が生産され、製品化されて消費者に届けられ、最後はどうなるのか、という連続したシステムとしての視点があります。
大量生産・大量消費を前提とした生産体制の行く手には、大量廃棄が待ち構えています。以前は望ましいスローガンとされていた「良いものをより安く」という経営思想は、グリーンリカバリーの時代になり消費者のニーズと乖離し始めました。「センスの良い家具を手軽に買い替える」提案で市場に評価されたIKEAやニトリなどの企業も、今後は戦略転換せざるを得なくなっていくでしょう。
未使用か使用済みにかかわらず、繊維製品の廃棄は食品ロスとともに大きな課題です。欧米では廃棄を禁止する法整備の動きが進み、アップサイクルやサーキュラーエコノミー(循環型経済)への試みも実現しています。これはもはや業界すらも越えた、社会全体で取り組むべき課題として認識されているのです。
※フェアトレードブランド「CARINO」でも、事業開始当初からサリー生地を用いたジャケットやストールなどをはじめとするアップサイクル商品の開発・販売を行っています。モンゴルでオーガニックのニット製品を作ってくれている工場では、繊維くずなど排出をゼロにして材料の無駄をなくしています。
コロナ以前はいわゆる「意識高い系」の関心事の域をなかなか出なかったエシカルやサステナビリティですが、2021年からは企業も個人も無視できない潮流となって、「普通のこと」「当たり前のこと」になっていくのではないか、と予想しています。
これまでこうした活動の中心を担っていたのは、1970年代の「公害問題」や1980年代の「チェルノブイリ原発事故」などを知る世代でした。これに新たな担い手となって加わるのが、グレタ・トゥーンベリに象徴される「エシカルネイティブ」なZ世代です。日本でも大学生を中心にフェアトレードやSDG'sを考えるサークルが増えており、SNSなどで情報の発信・共有を盛んに行っています。声をあげる消費者の台頭に対し、企業はマーケティングの面からも真剣に取り組む必要性が高まっています。
※記事を書き上げた直後、STEPPING STONEという産学連携のプロジェクト始動というニュースがインスタグラムから入ってきました。
インテグレーションとダイナミズム
既に述べたように、こうした動きは食品廃棄や衣料品廃棄、またアニマルウェルフェア(動物福祉)や環境への負荷軽減といった単独ごとのイシューにとどまりません。
SDG'sは川上から川下までの生産~流通~消費~廃棄・回収~再生というタテ方向のサプライチェーンに、そして個人の生活における食事、買い物、移動、睡眠、あるいは冠婚葬祭、就職、出産、転勤などといったライフスタイル・ライフサイクルの様々なシーンでヨコ方向にも連環していきます。
これからの製品・サービス創出は、労働者の権利保護、消費者の安全と健康保全、エネルギー消費量の抑制、CO2排出削減、ジェンダーや人種、少数民族や難民などのあらゆる課題がすべてどこかで連関するため、あらかじめ統合的な仕組みづくりとして意識され、構想されるようになっていくはずです。
具体的な例をあげてみましょう。かつて日本のアパレル市場を「アンダー1,000円ジーンズ」が席捲した時期がありました。2009~2010年ごろのことです。最初に商品を投入したGUを追って、SPAやGMS各社がこぞって900円台、800円台のジーンズを発売しました。「品質を落とさず低価格化」を実現するため、持てる経営資源をサプライチェーンの効率化に「全集中」していったのです。その時代には(といってもわずか10年前です)それが正解だったかもしれません。
翻っていま一本のジーンズを考えるとき、企業も消費者も「品質と価格」だけではその価値を判断しなくなっていきます。
- 生産の過程で水や土壌、生態系を過度に汚染していないか
- 原材料や製品製造に携わる人々の権利は守られているのか
- 劣悪な労働環境や低い賃金などの搾取が行われていないか
- 製造者や消費者の健康を害する物質を使用していないか
- 製造や流通の過程でCO2排出は抑制されているか
- 動物実験や原料動物の虐待がなされていないか
- 廃棄からリサイクル、アップサイクルの道が示されているか
グリーンリカバリーの時代がそれ以前と大きく異なるのは、こうした基準の遵守を一部の消費者だけでなく、株主や地域住民などのステークホルダーが求める点です。
これによりSDG'sへの配慮は企業にとってもはやコストではなく、ブランド価値の向上と支持獲得に欠かせない経営戦略・成長戦略へと転換しています。
企業や団体が戦略としてSDG'sに取り組む場合は、その関わり方を体系的に設計することが重要です。その際に指標となるのが、今回の記事でも冒頭に掲げているSDG'sの概念図です。
概念図では17の目標を表すカラーブロックが並列で並べられていますが、そのレベルは必ずしも揃っていません。解決すべき大きな課題であったり、そのための手段・要素であったりなので、取り組もうとする組織はこれを使って、企業内外のリソースをどのように組み合わせ、どのようなアクションを
具体的に起こすのか、自社の状況に合わせて考える必要があります。
(2021.05.11加筆:
SDG'sでは、17の目標の下位に計169のターゲットと数値指標が示されています。) 解説サイト➡
●SDG'sウエディングケーキモデル(スゥェーデン・レジリエンス研究所 )解説
マーケティングの4Pや4C、SWOT分析などといった伝統的なマーケティングミックスから考えてもよいでしょう。いずれにしろ、グリーン・リカバリー時代に求められる商品・サービスは、米企業アイリーン・フィッシャーのように従業員や協力会社、消費者、地域社会の人々などあらゆるストークホルダーと共に、よりダイナミックに創出されていくものになるはずです。
※SDG'sの図を基に、17の要素の関係性を自分なりに整理してみました。
深く広い分野にかかわることなので、知らないこともたくさんありますから、これはまだまだ完成途上です。
今後さらに理解を深めて、有用なものにしていこうと思います。現段階のものは下記からダウンロードできます。